アリエッティ

借り暮らしのアリエッティを観てきました。

以下、感想&ネタばれあり。



基本的には小人の少女アリエッティと、金持ちのボンボンで心臓を病んでいる少年の淡い出会いと別れの物語…に見えるけど、実際にはそこに重点が置かれているわけではない。
むしろ、ちいさな見知らぬ者(=「自然」)に出会ってしまった人間が善意と悪意という両極端な仕方でそれに接しようとする(少年の善意とお手伝いさんの悪意)けども、どちらもその見知らぬものを追い払う結果になってしまう、というお話。つまりは出会いが分かれの始まりでしかなかったという悲しいお話。

でも、いろんな意味で相変わらずのジブリ節炸裂でとってジブリな映画。個人的にはとっても好き。

映像は相変わらずきれいだし。

以下。個人的に気になった、あるいは気に入ったことを。
?いくつかの「かり」
 アリエッティたちの家族は(小人の種全体が、ではなくて)人間の家からつつましくいろんなモノを「借り」てくらしている。ガス、水道、居場所、食料などなど。これはもちろん何かお返しをすることを念頭に置いているのではくて、言うなれば「ちょっと拝借する」あるいは「失敬する」ってな意識。
もちろん、コレに対して「借りっぱなしで返していないじゃないか。泥棒じゃん」ってな反応はありえるのだけども、それを考えるときに重要なのが「狩り」をする小人族の存在。
 アリエッティたちは人間に気づかれないように「借り」に行くのだけども、その描写はスリルに満ちた「狩り」の様相を呈している。それはサバイバルそのものであって自分がネズミやタヌキに「狩られる」危険といつも隣り合わせなのであって、決してお気楽な「ちょいと失礼」ってな行為ではない。つまりアリエッティたちの「借り」は彼女らの環境からその環境を乱さない程度に拝借する、といったものであって事実上の「狩り」とパラレルになっている。それは後半に出てくる「狩り」で生計を立てている少年の登場によって印象的に裏づけられている。
 ここまで考えれば、アリエッティたちの暮らす家に「仮」住まいにやってきた少年とそこで働くお手伝いさんが代表している人間との対比があることは明らか。つまりとってもジブリ的なエコ思想がここにあるわけですわ。
 「借り」として自身の環境を乱さない程度に、そこから恵みを受け取ろうとするアリエッティたちや「狩り」をする他の小人たちに対して、「67億人」もいる人間のその環境(自然)に対する接し方が対比されている。幼い頃からの心臓病少々ヒネているとは言え、主人公の1人たる少年が「君たち小人族は数十人程度だろうが、人間は67億人いる。君たちは滅びる定めにある」という台詞を言わされているのは、慎ましやかな暮らしぶりの小人たちに対して大きくなりすぎて「借りる」のではなくて自然を搾取し破壊することしかしない人間の業の深さを彼が代弁させられているからなのだろうと思う。

 さらには自分のそれまでの人生に悲観して、手近に手助けできそうな小人たちにムリヤリプレゼントをし、他者に勝手に貸しを作ることで「善意」を施したことにしたい彼の行為もうまく描かれている。

?オマージュいっぱい。
 「人間」が急にやってきて、そこで昔から生きてきたものたちを排除してしまう、ってのはジブリ的エコ思想の根幹だと思われます。「トトロ」のすすわたり(マックロクロスケ)、「もののけ姫」、「平成たぬき合戦ぽんぽこ」などなど。
 でも今回の作品で面白いのは「人間」が出会う「見知らぬ者」がまた別様の「ひと」でもあるということ。つまり対峙する相手がど真ん中の「自然」ではないし、それの描写の仕方が「トトロ」的なノスタルジー(「昔はよかった」)でも、「ぽんぽこ」や「もののけ姫」的な全面対決でもなくて、「善意」であるということ。これはどういう意味なんだろか?多分、最も念頭に置かれている比較対象は「トトロ」だと思う。メイやサツキの一家が引っ越してきた住まいのエントランスと、今回の「アリエッティ」で少年が仮住まいにやってきた家のエントランスはとっても似ているし、「古い家」、「となりに居る見知らぬ存在」、「見られてはいけない」、「逃げ込むのは軒下」、「人工と自然が曖昧に重なる独特な「庭」の存在」などなど、描写、モチーフともども共通点がたくさん。だから結末部分の違いはとっても大事な気がするのですわ。

「トトロ」は「「見知らぬ隣人(=自然)」を尊重してお友達になりましょう。そしたら楽しいよ」だったのに対して今回は「見知らぬ隣人(≒ヒト≒自然)は見ても知らん振りして、善意悪意とを問わず手を触れないでおきましょう」になっている。さらには「さもないと、排除することになっちゃうよ」まで言っている気がする。
これは「トトロ」の公開から20年以上たって、新世代のジブリが、幼い頃「トトロ」を見た世代に向けてトトロ的な無邪気さの再考を促しているように見える。私には。







ま、とにかくとっても好きな映画です。
でも冷静に考えりゃツッコミ所は満載で、いただけないイデオロギーも多々入っています。
それでもこの映画が大好きなのは、多分、私がジブリ的ヒロイン(ナウシカとかシータとかサンとか)に激萌えだからなのでしょう。